広島地方裁判所 昭和25年(行)29号 判決
原告 桃谷福松
被告 尾道市選挙管理委員会委員長
一、主 文
尾道市選挙管理委員会が昭和二十五年七月二十八日原告の異議申立についてした決定はこれを取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決を求め、その請求の原因として、原告は昭和二十五年七月十九日尾道市選挙管理委員会(以下委員会と略称する)に対し同年八月十五日施行の備後海区漁業調整委員会選挙人名簿に訴外玄場時太郎が誤載されている旨の異議の申立をしたところ、同年七月二十八日同訴外人は漁業法第八十六條所定の漁業者であるとの理由で異議を却下する旨の決定がされ、同日該決定書は原告に送付された。しかし(一)同訴外人は市会議員の職にあつて自己名義で船鑑札は受けておらず、漁船登録を受けてはいるが実際は所有してをらず、(二)漁具も訴外光谷八助に貸與し漁業税等も納付したことなく自らの手で漁業を営んだことはない。(三)尤も同人は袋待網漁業者ということになつてはいるが、この漁業には漁船二隻を要し、内一隻は動力付でなければならないのに、同人はこれを所有していないし、賃借もしていないから、前記法條に所謂「漁船を使用する漁業を営むもの」ということはできない。右事実を枉げて前記訴外人を漁業者となし原告の異議申立を却下した前記決定は違法であるから、その取消を求めるため本訴に及ぶ次第であると述べた。尚本訴は一度昭和二十五年八月三日廣島高等裁判所に提起したが訴状に不備の点があつて返却されたので、同月八日再度同裁判所に提起するものであると附陳した。
(立証省略)
被告訴訟代理人は先ず訴却下の判決を求め、その理由として、原告が昭和二十五年七月二十八日本件決定の通知を受けたことは原告の主張で明かであるから、その取消を求める本訴は同日より七日以内に提起すべきであるのに、該期間経過後たる同年八月八日に提起されたものであるから不適法であると述べ、本案につき「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告主張事実中、原告が昭和二十五年七月十九日委員会に対しその主張のような異議の申立をしたところ同年七月二十八日その主張のような却下の決定がされ、同日該決定書は原告に送付されたこと、訴外玄場時太郎が袋待網漁業者であり、同人が自己名義で船鑑札を受けていないことは認めるが、その余の事実は爭う。委員会、訴外玄場時太郎が(一)漁民であることを必須要件とする吉和漁業協同組合の組合員であり(二)同組合員として漁獲物を同組合に供出し、漁業経営に必要な漁具の配給をうけ(三)昭和二十五年六月十九日同組合臨時総会に於ても漁民である旨の確認を受けている事実からして同訴外人を漁業法第八十六條所定の漁業者と認定したのであつて、このことは縣の経済部や尾道市長も同様に認定しているのであると述べた。
(立証省略)
三、理 由
先ず本訴の適否について判断すると、原告が昭和二十五年七月十九日委員会に対し、同年八月十五日施行の備後海区漁業調整委員会選挙人名簿に訴外玄場時太郎が誤載されている旨の異議の申立をしたところ、同年七月二十八日同訴外人は漁業法第八十六條所定の漁業者であるとの理由で異議を却下する旨の決定がされ、同日該決定書は原告に送付されたことは当事者間に爭のないところであるから、原告は行政事件訴訟特例法第五條第五項、公職選挙法の施行及びこれに伴う関係法令の整理等に関する法律第八條第二項及び公職選挙法第二十四條により、本訴を該決定の通知を受けた昭和二十五年七月二十八日から七日以内に提起しなければならないところ、本件訴状に押捺してある受理印によれば本訴は右期間の経過した同年八月十一日当裁判所に提起されたことが明かであるから、本訴は出訴期間経過後に提起された不適法な訴として却下を免れないように思われるが、成立に爭のない甲第二号証によれば、原告は右出訴期間内に本件訴状を廣島高等裁判所に提出したところ、同裁判所では不備の点ありとしてこれを原告に返送したことが認められるので、かような場合裁判所としてはいやしくも訴状が提出された以上一旦受け付けた上、補正命令によつてその欠缺を補正させるべきであること及び本訴の出訴期間が七日というような極めて短期間の場合には殊にその点に留意すべきであることを考えるときは、原告は右のような場合は出訴期間を徒過したのではなく、適法の期間内に訴を提起したものとして取り扱うのを相当とする。
從つて被告のこの点に関する抗弁は排斥を免れない。
次に訴外玄場時太郎が備後海区漁業調整委員会選挙人名簿に漁業者として登載されていることは、当事者間に爭いがないので、同人が漁業法第八十六條所定の「漁船を使用する漁業を営むもの」に該当するかどうかについてしらべてみると、証人中谷哲二、橋本勘吉、迫田国夫の証言を綜合すると、前記訴外人自身の言によるも、漁具は他人に貸與し自らは出漁せず、水揚の七割をその所得としていること、同人の昭和二十四年度の所得は農業及び給與の所得が二十万円、雜所得が四万円であること、同人は櫓舟しか持つておらず、動力付の船はその息子が持つていることを認めることができ、右認定事実に成立に爭のない乙第十号証により明かなように、同人が昭和二十五年二月二十七日はじめて融資の問題から吉和漁業協同組合に加入した事情を綜合すると、右訴外人は前記法條に所謂「漁船を使用する漁業を営むもの」とは解しがたく、その他同人が漁業法第八十六條所定の有権者と認めるべき証拠はない。右認定に反する証人迫田国夫の証言部分は措信できない。証人竹内昇の証言によれば縣の水産課が同人を前記組合の組合員と認めたのは組合員の意思に從つたにすぎず、その実体調査によつたものでないことが認められるから、その他の被告提出の証拠資料は採つて以つて前記認定の反証となし難い。それであるから訴外玄場時太郎は本件選挙人名簿に登載される資格がなく、從つて委員会がこれを登載したのは誤載であるから、この点に関する原告の異議を却下したのは違法であつて取消を免れない。
よつて原告の本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を摘用し主文の通り判決する。
(裁判官 三宅芳郎 幸野国夫 裁判官高橋正男は出張のため署名捺印することができない。)